『Dream Fighter』PV――ありふれない速度を表現するレトリック

Perfumeの新曲『Dream Fighter』はその映像によってなにを表現しようとしているのか。


まず「涙もぜんぶ宝もの」という歌詞から連想されるイメージ。
頻繁に画面を埋め尽くす透明な球体は、彼女たちが過去において流してきたおびただしい涙の滴であると同時に玉(ぎょく)=宝ものでもある。
PVの後半で一人一人が光を放ち透明な球(水晶球のイメージ)の中に封じ込められる。
そしてその球は空中に現れ彼女たち自身の手のひらへと与えられる。
前半で涙=悲しみの象徴として現れた滴は後半でそのまま宝ものへと変化を遂げかつその宝ものは彼女たち自身でもある。


「ねえみんながいう未来ってさなんだかんだって実際にたぶん真っ暗じゃなく光がさしてだけど普通じゃまだものたりないの」と歌われるにもかかわらずPVの背景はほぼ全編にわたって真っ暗な闇である。(例外として04:18に自らが光を放ち闇を照らしだす)
それは「みんながいう」ような「ものたりない」未来とは違う「普通じゃ」ない未来を表現しているのか。
あるいはからし色(光沢のある黄色)の衣装によって未来とは「真っ暗じゃなく光がさして」いるものではなく、「未来そのものは真っ暗だがそこに光を放つ自分自身が存在する」ということを表現しているのか。
少なくとも衣装の色が表現するのは光そのもののイメージだ。


PVの表現でもっとも目を惹くのはいくつかの短いカットで三人のダンスが現実にはありえない速度に加速される部分だろう。
いちばんわかりやすいのは04:08ぐらい。「うちのめされたおれそうになっても」の「た」のあたり。右手の返しの速度は現実にはありえない。
そのほかにも01:51。「あきらめない」の「ら」のあたり。
04:01。「なみだもぜんぶたからもの」の「た」のあたり。
細かくチェックすればまだまだある。


PerfumeのPVで速度が強調されることは最近ではほとんどなかった。強調されていたのはむしろ『ポリリズム』や『love the world』に見られる浮遊感だ。
Dream Fighter』では空中に浮かぶ球の表す浮遊感によって『ポリリズム』や『love the world』との連続性を保ちつつ『エレクトロ・ワールド』を特徴づけていた速度と両立させることに成功した。
それは振り付けについても言える。過去の作品からの引用とも思える表現を意図的に織り交ぜつつもその速度の表現において(また難易度も含め)今までになかったレベルに達している。



それを強調するのがPVでの現実にありえない加速というレトリックであり、『エレクトロ・ワールド』の速度と『ポリリズム』の浮遊感という過去のPerfumeの代表曲が持っていたイメージを統合し新しい世界を指し示そうとする。
歌詞の驚くほどの直截さともあいまって、『Dream Fighter』という曲そして振り付けを含めたPVの表現はPerfumeの新境地を世に問う意欲作であることはまちがいない。