『願い』――パーフェクトスターの分裂する切なさ

『願い』で「2つに分かれた自分」と歌われるのは、『Dream Fighter』で描かれる「パーフェクトスター」としての夢とは相反する、たかだか十九や二十歳の一人の女性としての「一番大事な気持ち」だ。
十代のほとんどを「普通じゃ」ない夢のために必死で努力してきた三人の、意図的に封印してきたもう一つの普通の願い。
それは普通の、ありふれた、どこにでも転がっているような凡庸でささやかな願いではあるけれど、同時に今の三人にとってはいつの間にかなによりも遠い、オリコン一位や武道館でのライブや紅白出場なんかよりもずっとずっとはるか遠く手の届かないものになってしまった願い。


「もうすこしの勇気があれば 叶うかもしれないよね」

「もうすこしの勇気がないと 叶わないことばかりで」


叶う夢と叶わない願いのあいだ――可能と不可能のあいだを歌詞は曖昧にゆらぐ。
「平行線」という言葉で表されるのは、ワタシとキミとの距離では決してなく、Perfumeとしての夢と一人の普通の女性としての願いという交わることのない二つの気持ちだ。

しかし中田ヤスタカは歌詞の最後で「一番大事な気持ちに 嘘は付かないと決めた 遠回りをしたけど これが本当の願い」と三人に宣言させる。なんて残酷な!


彼女たちは、決定的に分裂してしまった自分たちの二つの願望を幸福なかたちで統合することがいつかできるのだろうか。
それには勇気――それは『Dream Fighter』的な夢をかなえるよりもじつはもっともっと大きな勇気――が必要かもしれないということを彼女たち自身がだれよりもいちばんよく知っている。