『SEVENTH HEAVEN』その後

Dream Fighter』と『願い』が分裂してしまった二つの思いをテーマとし、『23:30』と『ワンルーム・ディスコ』が(シチュエーションとしては直線的につながらないものの)別れる前の鬱屈と別れた後の不安を歌っていたように、ここしばらく中田ヤスタカPerfumeに提供する楽曲は別々の曲が一つの世界を補完しあって表現をより深めてゆくというパターンが増えている。
そうした観点から聴くならば、『NIGHT FLIGHT』もやはり双子の片割れであり、対になるもう一曲が存在することに思いあたる。


『NIGHT FLIGHT』の歌詞でもっともコアとなるのは間違いなく「いつもと違う角度から見る キミはなんだかステキ」というフレーズであり、このまったく非凡な一節を引き立たせるために、前後の歌詞はあえてありふれた背景としての役割を与えられているかと思えるほどだ。
この、一瞬の眼差しの角度ですべての関係性を語り尽くしてしまうような表現。
それを私たちはすでに『SEVENTH HEAVEN』で経験している。


「わたしの斜め上 やさしく見下ろして おでこを撫でるの ああ」
「わたしの斜め上 その距離が遠くて 近づけないけど ああ」


少し距離をおいて並んで歩くのがせいいっぱいで「わたしの斜め上」にキミの顔を見上げるだけだったその眼差しの角度は、『NIGHT FLIGHT』で今まで経験したことのないような「いつもと違う角度から」キミを見つめるという視線へと変化する。
そこに暗示されるのは、男性の欲望では決してなく、女性の視点からのセクシュアリティだ。
SEVENTH HEAVEN』で語られた物語の後日談と読むことで、何気ない眼差しの角度に関する一節は、ありきたりな言葉を装いつつもあえて具体的に説明されないことで、その行間に膨大なイメージを喚起する。
まったくなんという歌詞を書くのだろうか、中田ヤスタカという人は。


SEVENTH HEAVEN』で「もしもね この願いがちゃんと叶うなら」と語られた(胸のうちに秘められた)願望は、『NIGHT FLIGHT』では「空がキラキラ 夢じゃないんだね」とすでに現実のものとなった。
今のわたしは「はじけて消え」るどころか、「あの子には負けないわ」とあくまでもアグレッシヴだ。
恥らう少女は「恋愛に対する攻めの姿勢はぶれない(2009/05/09:シャンデリアハウス)」というオトナの女になったのである。




【補足】
『NIGHT FLIGHT』と『SEVENTH HEAVEN』が双子の片割れ同士であることを示す共通点は、その眼差し以外にもいくつかある。
「きっとそのまま宙へ 昇っていくの天国へ」(『SEVENTH HEAVEN』)/「雲より高く」「星空を越えて」(『NIGHT FLIGHT』)という明確な上昇の隠喩。(もちろん『NIGHT FLIGHT』は飛行機に乗って空を飛ぶことについての曲ではない)
そしてタイトルが二つの英単語の組み合わせであり、かつすべて大文字で表記されるのは、Perfumeの楽曲中この二曲のみだ。(中田ヤスタカが、アルファベットの大文字/小文字の使い分けに相当なこだわりがあることは、例えば『Baby cruising Love』でも明らか)


代々木のライブにおいて、『SEVENTH HEAVEN』→『NIGHT FLIGHT』と演奏された曲順は、圧倒的に正しく、それのみならず意図的なものであったに違いない。