Kiss and Music

 時系列に沿ったひとつのストーリーであると解釈して『love the world』と『Kiss and Music』の二曲を聴いてみたい。
 二曲に共通して使われる単語には「隙間(隙)」と「刺激」がある。『love〜』でその二つの単語が喜びと希望とつながっていたのに対して『Kiss〜』では一転してシニカルかつ否定的なものになる。二曲をつなぐ長くない時間のなかで、それはどのように変化したのか。
 『love〜』における二人の関係を歌詞から類推するならば「あたし」は「キミ」に対して秘かに恋心をいだいているが、ただその気持ちは「ちょっぴり反省みたいな キャラにもないようなことも」「すこしの意地と」というような表現でほのめかされる彼女の素直に感情表現ができないツンデレ的資質のために「キミ」に対してわかりやすいかたちで表現されることはない。強がりを気取ってもそれがポーズにすぎない「あたし」は「キミ」と夜道を二人だけで歩くというシチュエーションでうっかり「一番星さがす 手が震えて」しまうような実は純情で初心なそしてロマンティックな少女でもある。そんなはっきりしない関係のなか、彼女から「こっそり秘密」を打ち明けることによってようやく「キミ」の心の「隙間」を見る。それは彼女がずっと見たいと望んでいたものでもあり、同時に見る前からどこかで気づいていた「キミ」に惹かれた本当の理由でもあった。「やわらかな キミのタイミング ずるいでしょ チュチュチュ」を身も蓋ない説明的な表現で言い直すなら、ようやく彼女に開示された「キミ」の心の「隙間」――彼の内側にある寂しさのようなものを見て彼女が普段の強がりの鎧をうっかり外してしまったそのタイミングで彼にキスをされたということ。その瞬間彼女にとっての世界はきらめき長い時間「あきらめないで」思い続けてきた恋愛が成就したのだ(と思い込む)。
 ここまでが希望と喜びに満ちた『love〜』で語られたストーリー。以下『Kiss〜』をその後日談と読む。
 『love〜』で「ほらステキ」と喜びに満ちて語られたものは、『Kiss〜』では「わからないのね 刺激じゃないわ」といきなり否定される。「一番星さがす」ようなそれほど遅くない夕暮れ時に並んで歩く程度だった二人は、今では深夜のクラブに一緒に出入りするような関係になっている。もちろん関係はそれだけでない。いま彼女が求めているのは「刺激」という言葉で遠回しに表現される関係ではなく彼の愛情だ。では二人がつきあっているのかというとよくわからない。なぜなら関係を続けなからも彼の態度がいっこうにはっきりしないからでそれに対して彼女はいらだっている。あれほど彼女が見たいと望んでいた彼の心の「隙(間)」はいまや隠されることすらなく、むしろだらしなくも煮え切らない無責任さにしか見えない。意味深にささやき声で「わからないのは あの日のことね」歌われるのは『love〜』で彼女を決定的に誤解させた彼の唐突なキス(そしてその後のあえて語られない親密な数時間)のことだ。彼女はそれが彼の気まぐれやいいかげんさの結果ではなく愛の告白だったと信じたいがためまだ混乱しているのだ。「勇気ないのね 踏み出せないの? ねえ」と挑発することで彼の態度をはっきりさせようと試みても、実のところ彼に勇気がないのではなく単に彼女を愛していないだけなのだから状況は変わるはずもなく、そのことにようやく気づき始めた彼女はさらにいらだつしかない。「踏み出せないの?」という問いかけが同時に自らにも向けられているということを彼女は知っている。さて彼女(あるいは彼女たち三人)は勇気をもって踏み出すことができるだろうか、という問いかけはまた現在のPerfumeに対して向けられているものでもある。アルコールで酔っぱらっても音楽の低音に身を任せて踊っても、深夜に二人を隔てる心の間隙は鋭さを増していくばかりだ。

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 アルバム全体については、既発曲と新曲をフラットな感覚で聴くことがまだ困難なため評価は保留。ただ全体的に音がびっしり詰まった印象の曲が多いなかで『Kiss and Music』は音に隙間があってかつタイトでよいですね。アルバムの中ではこの曲がいちばん好きかもしれない。そもそも一般的なポップ・ミュージックというものはこんなに音がぎっちり詰まっているものなんですかね。普段音がすかすかな音楽しか聴いていないだけかもしれないけれど、アルバムなんてもっと音が少なくないと通して聴くのに疲れちゃうんじゃないかしら。